上層部による過小評価

マネージャーとしてクリエイティブなプロジェクトに携わり、予算と納期を厳守して成功へと導く人は、慎重にクリエイターを選択し、ブリーフィングとレビューを行います。多様なスキルと才能を持ったスタッフを結集するので、彼らの経験と知識は古いものから新しいものまで様々です。レビューと再評価を繰り返し、ようやく第3者に見せられる商品を作り上げます。さてその次は?さらにミーティングです・・・

このミーティングに参加する人たちは、商品を作ったクリエイターたちと同等の専門知識と経験を持っているでしょうか?複雑な進退を繰り返すような、仕掛品についての交渉の当事者となったことがあるでしょうか?猛反対を受け、袋小路に入り、気苦労の耐えない実験を繰り返したことがあるでしょうか?おそらくないでしょう。それでも意見は持っているようですが。

「会議の繰り返しで幾日も過ごし、色を調整し続ける。結果は全てグレーなのに」〜 アラン・シャーマン

アウトソーシングしたクリエイティブなプロジェクトに対して、本当の意味で貢献できるマネージャーは少なく、多くの企業では、そのような人材を見つけることは難しいでしょう。いたとしても、おそらく彼らは忙しく、それぞれのプロジェクトで手一杯のはずです。しかしながら、会議で誰かに意見を求めてみると、十中八九何かしら言ってくるものです。「詳しいことはわかりませんが・・・」という前置き付きで。

クリエイティブなプロジェクトが抱える問題とは、クリエイターはその特性によって常に新しいものを提案しようとするということです。彼らの作品は良いものほど一般の人にとっては新し過ぎるので批判的な意見を集めやすく、結局採用されないという安易な結果に終わってしまいます。この理由はシンプルなものです。つまり、「反論者は反対したことで批判はされない」ということです。彼らが間違っていたと証明される頃には、批判したことさえ忘れられているか、適当な理屈をつけて正当化することができるような状態になっているでしょう。例えば、「ええ、もちろんデザインの段階と市場投入の間でマーケットがこんなに急激に変化することは予想不可能でしたよ」とか、「まあ、黒くするならそう言ってくれれば私も・・・」などと言うかもしれません。

「革新が求められている場でコンセンサスによる経営法は無意味である」

批判的な攻撃を無視して平然と振る舞うためには、マネージャーには確かな自信が必要です。決断する内容が重要で大きなものほど、その商品が上層部で否定されやすくなります。自分の案を通して会社を動かし、大量生産とマーケティングにかかる莫大な資金を捻出させるためには、マネージャーには相応の権限と自信が備わっていなくてはなりません。いつも邪魔をする販売部門のYさんが問題があるときに限って登場し、「俺の言った通りだろ」と皆に触れ回るであろうことを知っていても、それに動じないためにも。
多くの革新的な企業が、自信家で強力なリーダーに率いられているのは偶然ではありません。彼らはリスクを背負うことができ、失敗をしてもクビになる可能性は少ないのです。中堅クラスのマネージャーは、仕事を失うリスクといつも背中合わせで、クリエイティブで革新的な作品を押し通すには、尋常でない勇気が必要になります。
この事を理解するのはディレクターやもっと上のマネージャーの役割で、彼らは失敗を恐れずにリスクをとることを促すべきです。クリエイティブなマネージャーは専門分野に自信をもち、自分のスタッフの能力を信頼し、上層部に作品を過小評価させないようにするのが役割なのです。

「コンセンサスとは集合体の意見として各個人が同意したものを意味し、個人的には誰も賛成していないのである」〜 アバ・エバン

大きなクリエイティブ・プロジェクトについて、それが商業的に成功するか否かは、最初に持っていたオリジナルのビジョンに忠実であるかどうかと、クリエイティブなプロセスに関わりのない人間が作品の魅力を希薄にするのを防げるかどうかにかかっています。多くのビジネス分野で重要とされているコンセンサスに基づいた経営は、革新が求められている場では無意味なものなのです。

消費者製品を生産しているある多国籍企業が、海外のより広いマーケットへと販売網を拡げるために、最も利益を生んでいる商品群のデザインを新しくすることを決めたと仮定します。彼らはエージェンシーと協力して詳細なプランを練りました。そのエージェンシーに所属しているコンサルティングのスペシャリストは、5組の優秀なデザインチームを選定しました。いずれもピッチの段階ですでに多額の制作費を必要とするグループです。優秀な人材は当然常に多忙ですが、そうでなくては雇う意味がありません。何ヶ月もかけてピッチの候補を列挙した後チームが選ばれ、ブリーフィングが行われ、納期が決まり、交渉が成立しました。そして報酬の50%がアドバンスとして支払われました。

プロの制作スタッフが集められ、進捗状況のモニターと首脳陣への報告が行われるようになりました。デザインが提出され、話し合いの結果修正が加えられます。商品のモックが作られ再評価されます。印刷物とテレビコマーシャルの検討がされ、スケッチやストーリーボードが作られます。タイプフェイスがデザインされ、同じ名前がないか調べた後登録されます。いよいよ市場への発表を控え、6ヶ月に及ぶ多くの才能溢れるスタッフの努力の結果、クリエイター、仲介のエージェンシー、メインのエージェンシー、クライアント、マーケティング部門など皆が納得し、試験販売でもよい結果が得られました。最後に首脳陣による審査が行われ、ついに彼らも納得しました。

ある日の朝食、その企業の取締役会長は妻に、巨額の資金を投入した主要商品の新ブランドについて話をしていました。彼が新しいブランド名を伝えると、妻はその名前が気に入りませんでした。彼女が嫌う何かを連想させるのだそうです。その結果、あえなくプロジェクトはキャンセルになってしまいました。(あー、少なくとも皆がタダ働きにならないことを祈るしかないですね。)